本物そっくりの動画を、人は見抜けない。ディープフェイクと「見たから信じる」の落とし穴

有名人が投資をすすめる動画、上司がビデオ通話で送金を指示する映像。AIで作られた「本人そっくり」の動画や顔は、もう珍しくありません。研究では、人はディープフェイクを確実には見抜けないのに、自分は見抜けると思い込んでいることがわかっています。
3行でわかる
- 210人の実験で、人はディープフェイク動画を確実には見抜けず、注意を促しても、報酬を出しても成績は上がらなかった。
- 人は偽物を本物だと思い込みやすく、さらに自分の見抜く力を実際より高く見積もっていた。
- AIで作った顔は本物の顔と見分けがつかず、本物より信頼できると評価された。動画や写真は「本人の証拠」にしないことが大切。
01犯罪者側から見ると何が起きているか
だます側は「映像があるから本物だ」という思い込みを利用します。動画や写真は、信じてもらうための道具になります。
ディープフェイクとは、AIを使って人の顔や声を別の映像に合成し、本物のように見せる技術です。
警察庁の統計では、2025年のSNS型投資詐欺で最初の接触のきっかけになったツールのうち、YouTubeの広告などが大きく増えました。有名人の名前や姿を使った広告や動画は、信用させるための入口になりやすいと考えられます。
02研究と統計でわかっていること
人は偽物の動画を確実には見抜けず、しかも見抜けると思い込んでいます。AIの顔は、本物より信頼されることさえあります。
Köbisら(2021)[1]
事前に計画を登録した実験で、210人に本物とディープフェイクの動画を見分けてもらった。人は偽物を確実には見抜けず、注意を促しても、正解に報酬を出しても成績は上がらなかった。人は偽物を本物だと思い込みやすく、自分の見抜く力を実際より高く見積もっていた。
対象: 210人 / 限界: 実験用の動画で、実際にSNSで見る状況とは異なる。
NightingaleとFarid(2022)[2]
AIで作った顔の写真のリアルさを調べた。AIで作った顔は本物の顔と見分けがつかず、本物の顔より信頼できると評価された。
対象: 顔の写真を評価した参加者 / 限界: 写真の評価で、動画や会話の場面とは異なる。
警察庁(2025年の統計)[3]
2025年のSNS型投資詐欺は9,523件、被害額は1,288.0億円。最初の接触手段は広告とダイレクトメッセージで約8割を占め、広告ではYouTubeが1,024件と前の年から大きく増えた。
対象: 全国の警察が把握した件数 / 限界: 広告にディープフェイクが使われたかどうかは統計からはわからない。
03お金をかけずに今日からできること
「本物に見えるか」を確かめようとしないことです。お金や個人情報が関わるときは、別の方法で本人や公式に確かめます。
動画や写真を「本人の証拠」にしない
有名人や知人の映像でお金や投資をすすめられても、映像があることを理由に信じないと決めておきます。
所要 0分(考え方だけ)
公式の窓口から確かめる
有名人の投資話なら本人や事務所の公式サイト、会社の送金指示なら社内の決まった連絡先に、自分から確かめます。
所要 5分
送金の前に、誰かに話す
お金を送る前に家族や同僚に一言話します。迷ったら警察相談専用電話(#9110)に相談します。
所要 数分
04習慣にするコツ
自分は見抜けるという自信こそが、だまされる入口になります。「見抜く」より「確かめる」を習慣にします。
- SNSの広告から投資の話に進むときは、いったん画面を閉じて時間を置く。
- ビデオ通話で送金や支払いを頼まれたら、通話を切って、いつもの連絡先にかけ直す。
- 「自分は大丈夫」と思ったときほど、確かめる手順を飛ばさない。
05よくある質問
ディープフェイクは見抜けますか
研究では、人はディープフェイク動画を確実には見抜けず、注意を促しても上達しませんでした。見抜こうとするより、別の方法で確かめることが大切です。
有名人が投資をすすめる動画は信じていいですか
映像があることだけを理由に信じないことです。本人や事務所の公式サイトなど、自分で探した窓口で確かめます。
なぜ人は偽物の動画にだまされるのですか
研究では、人は偽物を本物だと思い込みやすく、自分の見抜く力を実際より高く見積もっていました。「見たから信じる」が落とし穴になります。
出典
- Köbis, N. C., Doležalová, B., & Soraperra, I. (2021). Fooled twice: People cannot detect deepfakes but think they can. iScience, 24, 103364. https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.103364
- Nightingale, S. J., & Farid, H. (2022). AI-synthesized faces are indistinguishable from real faces and more trustworthy. PNAS, 119, e2120481119. https://doi.org/10.1073/pnas.2120481119
- 警察庁. 「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」(2026年5月22日). https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2025.pdf