見守りカメラやGPSタグを乗っ取るのは誰か。元交際相手による「技術的虐待」の研究でわかったこと

留守中の様子がわかる見守りカメラや、持ち物の位置がわかる小さなGPSタグ・紛失防止タグ。便利だからこそ、家族や交際相手と一緒に設定して使っている人も多いはずです。けれど研究では、関係が終わった後も、そのときのアクセス権がそのまま相手の監視の道具になってしまうことがあると指摘されています。難しい話ではなく、設定の見直しだけで防げることもあります。
3行でわかる
- 家庭のIoT機器は、設定やパスワードを知っている元交際相手や家族に悪用される危険があると、研究で指摘されています。
- 薬物・アルコール治療を受けていた男性を調べた海外の研究では、交際相手への技術を使った監視・嫌がらせを認めた人が2〜3割いました。
- 初期パスワードの変更と、関係が終わったときのアクセス権の見直しで、ふさげる手口があります。
01犯罪者側から見ると何が起きているか
見守りカメラやGPSタグは、設定やパスワードを知っている元交際相手や家族に悪用される危険があると、研究で指摘されています。
「乗っ取り」と聞くと、知らない誰かがパスワードを割って侵入する場面を思い浮かべるかもしれません。しかし研究で注目されているのは、もっと身近なケースです。交際していたときに一緒に設定したカメラや、位置情報を共有していたGPSタグ・紛失防止タグが、関係が終わった後も相手の手元に残り、そのまま使われてしまうのです。
研究者は、こうした身近な人物による技術を使った嫌がらせ・監視を「技術的虐待」と呼んでいます。報告されている手口は、共有していたアカウントのパスワードを変えないまま使う、位置情報の共有をオフにしない、見守りカメラの映像を見続ける、といった方法です。高度な技術がなくても、関係があったときのアクセス権がそのまま使われてしまうことがあります。
ネット上のつきまとい(サイバーストーキング)の加害者について、研究で指摘されている動機は、関係を取り戻したい、相手を支配したい、相手に復讐したいという気持ちです。自己統制力の低さや、インターネットの利用の多さも特徴として挙げられていました。
02研究と統計でわかっていること
薬物・アルコール治療を受けていた男性を調べた海外の研究では、交際相手への技術を使った監視や嫌がらせを自分から認めた人が2〜3割いました。
Gilchristら(2017)[1]
イングランドで薬物・アルコール治療を受けていた男性223人のうち73人(33%)が、現在または直近の交際相手に、技術を使った虐待行為をしたと答えました。メッセージでの嫌がらせや脅し、携帯電話で居場所を確かめる、相手のメッセージを無断で見る、のうち1つ以上です。ブラジルでは280人中57人(20%)が同様でした。
対象: イングランドとブラジルで薬物・アルコール治療を受けていた男性503人 / 限界: 自己申告の横断調査で、1回でもあれば該当とする測り方のため多めに出ている可能性がある。治療を受けていない一般男性の割合とは異なる可能性がある。
Brown・Harkin・Tanczer(2025)[2]
家庭用のIoT機器13種類を調べたところ、誰が機器やデータにアクセスできるのかが利用者から見えにくい、どの端末からログインしたかが記録されない、パスワード再設定の仕組みを使って乗っ取られやすい、といった弱点が見つかりました。被害者が気づかないまま、元パートナーが遠隔で映像やデータを見られる状態が続くおそれも指摘されています。研究者は、機器を作る側が設計の段階からこうした悪用を想定するべきだと述べています。
対象: 市販されている家庭用IoT機器13種類の分析 / 限界: 対象機種は分析時点で入手できた製品に限られる。
Weekesら(2026)[3]
ネット上のつきまといの加害者と手口を80件の研究から整理しました。最も多かったのはメール・SNS・メッセージでの望まない繰り返しの接触で、ほかにアカウントへの不正アクセス、GPSでの位置追跡、被害者へのなりすましも報告されていました。加害者には自己統制力の低さや、関係を取り戻したい・復讐したい・支配したいという動機が見られました。
対象: 2009〜2024年に発表された実証研究・レビュー80件の系統的レビュー / 限界: 大半が海外の研究で、国内の実態と異なる場合がある。
技術的虐待を扱った22件の研究をまとめたレビューでも、手口はSNSでのつきまといだけでなく、スマートフォンの悪用やカメラでの監視といった日常の機器の誤用にも広がっていると報告されています。[4]
03お金をかけずに今日からできること
初期設定の見直しと、関係が終わったときのアクセス権の確認で、ふさげる手口があります。
初期パスワードを自分だけのものに変える
見守りカメラやスマートスピーカー、家のルーターを使い始めるとき、工場出荷時のままのパスワードを変更します。
所要 5分
関係が終わったら共有アカウントを一つずつ見直す
交際相手や配偶者と使っていたクラウドのアカウント、位置情報の共有、スマートロックの暗証番号を、関係が終わったタイミングで確認し、変更・解除します。
所要 15分
見守りカメラ・スピーカーのログイン履歴を時々確認する
アプリの「ログイン中の端末」「アクセス履歴」を開き、見覚えのない端末や、使っていない端末が残っていないか確認します。
所要 3分
知らないタグの追跡を知らせる機能をオンにする
スマートフォンには、持ち物に紛失防止タグが入れられていないかを検知して知らせる機能があります。設定を確認してオンにしておきます。
所要 3分
04習慣にするコツ
「人間関係が変わったら、デジタルのアクセス権も見直す」ことを、鍵の受け渡しと同じ習慣にすることです。
- 引っ越しや同棲の解消のときも、鍵の交換と同じようにスマート機器のアクセス権を見直す。
- 家族共有のアルバムや位置情報共有アプリも、定期的に「誰と共有しているか」を見直す。
- 説明のつかない形で居場所や予定を知られていると感じたら、日時と状況を記録しておく。
05よくある質問
見守りカメラは本当に元交際相手に乗っ取られるのですか
研究では、関係があったときに一緒に設定した機器やアカウント、知っていたパスワードが、別れた後も使われる危険が指摘されています。誰がアクセスできるのかが利用者から見えにくい機器も多いため、パスワードとアクセス権の見直しが大切です。
GPSタグで追跡されているか、どう確認すればいいですか
スマートフォンには、持ち物に入れられた知らないタグを検知して知らせる機能があります。設定がオンになっているか確認し、見慣れない通知があれば、最寄りの警察署や警察相談専用電話 #9110 に相談してください。
スマートスピーカーの会話は誰かに聞かれていますか
共有アカウントのままになっていると、会話の履歴や操作履歴を見られる可能性があります。使っていない家族・交際相手のアカウントが残っていないか確認しましょう。
出典
- Gilchrist G, Canfield M, Radcliffe P, D'Oliveira AFPL (2017). Controlling behaviours and technology-facilitated abuse perpetrated by men receiving substance use treatment in England and Brazil: Prevalence and risk factors. Drug and Alcohol Review, 36, 52-63. https://doi.org/10.1111/dar.12521
- Brown A, Harkin D, Tanczer LM (2025). Safeguarding the "Internet of Things" for Victim-Survivors of Domestic and Family Violence: Anticipating Exploitative Use and Encouraging Safety-by-Design. Violence Against Women, 31(5), 1039-1062. https://doi.org/10.1177/10778012231222486
- Weekes CJ, Storey JE, Pina A (2026). Cyberstalking Perpetrators and Their Methods: A Systematic Literature Review. Trauma, Violence & Abuse, 27(3), 1009-1025. https://doi.org/10.1177/15248380251333411
- Rogers MM, Fisher C, Ali P, Allmark P, Fontes L (2023). Technology-Facilitated Abuse in Intimate Relationships: A Scoping Review. Trauma, Violence & Abuse, 24(4), 2210-2226. https://doi.org/10.1177/15248380221090218


