夜道でひったくりに遭うリスクはなぜ上がるのか。暗さの研究と、今日からできる歩き方

夜道でひったくりに遭うかもしれない不安には、理由があります。イギリスの10年分の警察データを使った研究では、同じ時間帯でも日が落ちて暗くなると、対人強盗の発生率が約1.87倍に上がっていました。暗さだけが原因とは言い切れませんが、歩く道と時間を選ぶことには根拠があります。
3行でわかる
- 同じ時間帯で比べても、暗くなると対人強盗の発生率は約1.87倍でした(イギリス、2010〜2019年)。
- 街灯を増やした地域では、ひったくりに近い「不意打ち型の窃盗」が2〜3割減っていました(チリ、2016〜2019年)。
- 強盗の映像を分析した研究では、被害者が抵抗すると加害者が暴力を使う可能性が大きく上がっていました。
01犯罪者側から見ると何が起きているか
奪う側は、人目がなく、短時間で済み、抵抗されない相手と場所を選びます。明るさと人の目は、この3つの条件をどれも崩します。
路上で金品を奪う犯罪は、相手に気づかれず近づき、短時間で成功させる必要があります。暗がりは「見られているかどうか」の判断を鈍らせ、人通りの少ない道は「逃げても追われない」という見積もりを有利にします。奪う側にとって、暗さと人の少なさは失敗のリスクを下げる条件になっています。
実際の強盗事件の監視カメラ映像を分析した研究では、奪う側は暴力そのものを目的にしているわけではなく、相手が素直に応じれば、物理的な力を使わずに済ませることが多いとわかっています。逆に、相手が抵抗すると、奪う側が暴力を使う可能性は大きく上がっていました。つまり奪う側が望むのは「抵抗されずに、早く終わる」状況です。
02研究と統計でわかっていること
暗くなると対人強盗の発生率は統計的に高くなり、街灯を増やすと路上の「不意打ち型窃盗」が減ることが、研究で示されています。
Uttleyら(2025)[1]
イギリス・サウスヨークシャー州警察の10年分(2010〜2019年)のデータを使い、同じ時間帯を「暗い季節」と「明るい季節」で比較しました(薄明の時間帯は除外)。対人強盗(人から直接金品を奪う犯罪)は暗い時間帯でオッズ比1.87倍、自転車盗は1.68倍、犯罪全体でも1.30倍でした。一方、性犯罪では暗さによる明確な差は見られませんでした。
対象: イギリス・サウスヨークシャー州の犯罪記録34,618件 / 限界: 暗さと犯罪の発生に関連があることを示すもので、暗さだけが原因と確定するものではありません。
Cadena-Urzúaら(2025)[2]
チリの101の自治体で街灯を改善した地域と、改善していない244の自治体のデータを比較しました。奪う側が不意をついて金品を取る「不意打ち型窃盗」は19.9〜29.8%減っていました。一方、凶器を使うような凶悪な強盗では、はっきりした減少は見られませんでした。
対象: チリの345自治体、2015〜2019年のデータ(街灯の改善は2016〜2018年) / 限界: 中南米の都市データで、街並みの違う日本にそのまま当てはまるとは限りません。
Liebst・Lindegaard・Bernasco(2021)[3]
オランダの商業施設で実際に起きた強盗50件の監視カメラ映像を分析しました。50件のうち41件(82%)は物理的な暴力を使わずに終わっていました。被害者が抵抗しなかった39件のうち暴力が起きたのは3件でしたが、抵抗した11件のうち6件で暴力が起きており、統計的にも強い関連が示されました。
対象: オランダ・アムステルダムとロッテルダムの商業施設の強盗映像50件(2011〜2014年) / 限界: 店舗を狙う商業強盗の映像研究であり、路上のひったくりとは状況が異なります。
03お金をかけずに今日からできること
暗い近道より明るい大通りを選び、スマホを見ながら歩かず、万一のときは持ち物より自分の安全を優先することです。
近道より明るい大通りを選ぶ
暗い路地を数分短縮するより、人通りと街灯のある道を選びます。暗さそのものが対人強盗のリスクを上げるという研究があります。
所要 0分(選ぶだけ)
暗い時間に一人で歩くなら、タイミングをずらす
友人と帰る時間を合わせる、家族に連絡しておくなど、人目がある状態を作ります。奪う側は人に見られることを避けます。
所要 1分(連絡するだけ)
スマホを見ながら歩かない
画面に集中していると周りへの注意がそれます。確認したいときは一度立ち止まる習慣にします。
所要 0分(習慣)
もし奪われそうになったら、持ち物より安全を優先する
研究では、抵抗すると暴力が起きる可能性が大きく上がっていました。無理に取り返そうとせず、安全を優先して構いません。
所要 0分(心構え)
04習慣にするコツ
「今日は暗い道を通らない」を毎回の判断にすることです。特別な対策より、小さな選択の積み重ねが効きます。
- 帰りが遅くなりそうなときは、先に家族や友人に一言連絡しておく。
- よく使う道の中で「明るい方」をあらかじめ決めておく。
- 自転車利用者も、暗い時間の無施錠駐輪は避ける(自転車盗も暗さでリスクが上がっていました)。
「気をつけているつもりでも不安が消えない」と感じる人は少なくありません。街灯の効果そのものについては「街灯を明るくすると犯罪は減るのか」も参考にしてください。
05よくある質問
夜道を歩くとき、何に気をつければいいですか?
研究では、暗さそのものが対人強盗のリスクを上げていました。明るく人通りのある道を選び、スマホを見ながら歩かないことが、今日からできる対策です。
ひったくりに遭ったら抵抗したほうがいいですか?
強盗の映像を分析した研究では、被害者が抵抗すると加害者が暴力を使う可能性が大きく上がっていました。持ち物より自分の安全を優先してください。けがをした、または危険を感じたら110番、緊急でない相談は警察相談専用電話「#9110」が使えます。
街灯が少ない地域に住んでいる場合はどうすればいいですか?
街灯を増やした地域では不意打ち型の窃盗が減ったという研究がありますが、個人で街灯は増やせません。できることは、普段使う道の中で明るい方を選ぶ、時間を調整する、人と一緒に歩くことです。
自転車で帰るときも注意は必要ですか?
はい。同じ研究で、自転車盗も暗い時間帯にオッズ比1.68倍まで上がっていました。明るい場所に止める、短時間でも施錠することが対策になります。
出典
- Uttley, J., Canwell, R., Smith, J., Falconer, S., Mao, Y., & Fotios, S. (2025). Does darkness increase the risk of certain types of crime? A registered report. PLoS One, 20(6), e0324134. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12194184/
- Cadena-Urzúa, P., Guardiola, J., & Montes, F. (2025). The impact of public lighting improvement on crimes and incivilities reduction in Chile. Frontiers in Sociology, 10, 1541359. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11966243/
- Liebst, L. S., Lindegaard, M. R., & Bernasco, W. (2021). Dissecting the Role of Dominance in Robberies: An Analysis and Implications for Microsociology of Violence. Journal of Interpersonal Violence, 36(15-16). https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8276331/