家族の声でも本物とは限らない。AI音声のなりすまし詐欺と「合言葉」の備え

電話の向こうで、息子や孫そっくりの声が「事故を起こした」「今すぐお金が必要」と言う。AIの音声合成を使えば、本人に似た声を作ることができる時代になりました。研究では、人は偽物の声を確実には見抜けないことがわかっています。だからこそ、声ではなく「確かめ方」で身を守ります。
3行でわかる
- 英語と中国語の529人の実験で、AIで作った偽物の声を正しく見抜けたのは73%だった。
- 偽物の声の例を聞かせても成績はわずかしか上がらず、約12分の練習でも見分ける力はほとんど伸びなかった。
- 声で判断せず、いったん切って本人の番号にかけ直す、家族で合言葉を決める、という確かめ方が有効な備えになる。
01犯罪者側から見ると何が起きているか
詐欺をする側は、家族の声に似せることで「本人からの電話だ」と思い込ませ、考える時間を与えずにお金を払わせようとします。
AIの音声合成を使うと、本人の声に似せた声で、好きな言葉を話させることができます。
声が似ていても、例えば次のような電話には注意が必要です。
- 「事故」「トラブル」など、慌てる話を持ちかける
- 「今すぐ」「誰にも言うな」と急がせ、相談させない
- いつもと違う電話番号やアプリからかけてくる
警察庁の統計では、2025年のオレオレ詐欺は14,489件で、前の年から大きく増えています。声で家族を名乗る詐欺は、今も最も身近な手口の一つです。
02研究と統計でわかっていること
人はAIで作った声を確実には見抜けません。練習してもほとんど上達しないことも、研究で示されています。
Maiら(2023)[1]
529人に本物の声とAIで作った偽物の声を聞かせ、偽物を見分けてもらった。正しく見抜けたのは73%で、英語と中国語で差はなかった。偽物の声の例をあらかじめ聞かせても、成績はわずかしか上がらなかった。
対象: 英語と中国語の話者529人 / 限界: 実験用に作った音声で、実際の電話の状況とは異なる。
Yangら(2026)[2]
30人に、人の声とAIで複製した声を聞き分けてもらい、約12分の練習の前後で比べた。練習の前も後も見分ける成績は低く、上達はごくわずかだった。脳の反応には変化があったが、判断の正しさにはつながらなかった。
対象: 30人 / 限界: 少人数の実験室での研究。
警察庁(2025年の統計)[3]
2025年のオレオレ詐欺は14,489件で、前の年より7,737件増えた。年代別では80代以上が最も多いが、20代と30代の被害も大きく増えている。
対象: 全国の警察が把握した件数 / 限界: AIの声が使われたかどうかは統計からはわからない。
03お金をかけずに今日からできること
声が本物かどうかを聞き分けようとせず、別の方法で確かめます。家族で決めておけば、お金はかかりません。
いったん切って、本人の番号にかけ直す
知らない番号や「番号が変わった」という電話は、いったん切り、登録してある本人の番号にかけ直して確かめます。
所要 1分
家族だけの合言葉を決める
家族で、本人しか知らない合言葉や質問を決めておきます。急な電話では、それを聞いてから話を進めます。
所要 10分(家族で話す)
お金の話が出たら、一人で決めない
「今すぐ」「誰にも言わないで」と言われたら、それ自体を詐欺のサインと考えます。家族や警察相談専用電話(#9110)に相談します。
所要 数分
04習慣にするコツ
「声が似ているかどうか」を判断の材料から外すことです。確かめる手順を、家族で前もって決めておきます。
- 合言葉は、SNSに書いていない思い出や、家族しか知らない呼び名にする。
- 離れて暮らす親には、「お金の電話は必ず一度切って、私の携帯にかけ直す」と伝えておく。
- 身の危険や事件に巻き込まれたと感じたら、迷わず110番する。
05よくある質問
AIで作った声は聞き分けられますか
研究では、偽物の声を正しく見抜けたのは73%でした。練習してもほとんど上達しないため、声で判断しないことが大切です。
家族の声で電話がかかってきたらどうすればいいですか
いったん電話を切り、登録してある本人の番号にかけ直して確かめます。お金の話が出たら、一人で決めずに家族や#9110に相談します。
合言葉はどう決めればいいですか
SNSなどに出ていない、家族しか知らない思い出や呼び名を使います。急な電話では、合言葉を確かめてから話を進めます。
出典
- Mai, K. T., Bray, S., Davies, T., & Griffin, L. D. (2023). Warning: Humans cannot reliably detect speech deepfakes. PLOS ONE, 18, e0285333. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0285333
- Yang, J., Jiang, H., Bai, Y., Ni, G., & Teng, X. (2026). Short-Term Perceptual Training Modulates Neural Responses to Deepfake Speech But Does Not Improve Behavioral Discrimination. eNeuro, 13. https://doi.org/10.1523/eneuro.0300-25.2026
- 警察庁. 「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」(2026年5月22日). https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2025.pdf