防犯の心理学

周りに人がいるほど、助けが遅れる?「傍観者効果」の研究と、目撃したときに今日からできること

約6分で読めます

Crowded promenade with many pedestrians walking
Photo: PattayaPatrol / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究をAIが調べて整理しました(防犯グッズ・商品の紹介はしていません。出典は末尾)。

駅のホームや繁華街で、何か様子のおかしい場面に出くわしたのに、「誰か呼ぶだろう」と思って自分も周りの人も動かなかった。そんな経験はないでしょうか。これは意志が弱いからではなく、心理学で長く確かめられてきた「傍観者効果」という現象です。何が起きているかを知っておくと、いざというときの一歩が変わります。

3行でわかる

  1. 周りに人が多いほど、一人ひとりが「自分が動かなくても誰かが動くだろう」と考えやすくなります。105件の研究・7,700人以上を統合したメタ分析で確かめられた現象です。
  2. 状況が本当に危険なときは、この効果はむしろ弱まることが同じ研究でわかっています。「人が多い場所だから、どうせ誰も助けに来ない」と決めつける根拠はありません。
  3. 今日からできるのは、周りを待たずに自分がまず110番すること、助けを求めるときは「そこの方」のように一人を具体的に指すことです。

01 犯罪者側から見ると混雑した場所は、なぜ「見られているのに見られていない」場所になるのか?

人が大勢いても、誰も声を上げず誰も動かなければ、犯罪を防ぐ「見ている人」は実質的にいないのと同じです。環境犯罪学では、犯行の起きやすさは物理的な人数ではなく、実際に動く人がいるかどうかで決まるとされています。

環境犯罪学の「日常活動理論」では、犯罪が起きるには、やる気のある行為者、ねらわれやすい対象、そして「有効な監視者(capable guardian)」が足りないことの3つが同時にそろう必要があるとされています。ここでの「監視者」は、警備員や警察官だけを指しません。近くにいる一般の人も含まれます。

問題は、人数が多いことと、有効な監視者がいることは同じではない点です。心理学の研究では、周りに人が多いほど、一人ひとりが「自分でなくても誰かが対応する」と考え、実際に行動する人が減ることが確かめられています。繁華街や駅前など人が集まる場所は、同時に犯罪の「ホットスポット」にもなりやすいことが知られていますが(犯罪は街のごく一部に集中する)、人通りの多さそのものが安全を保証するわけではありません。

つまり、混雑した場所は、物理的には人目が多くても、誰も動かなければ犯行をしやすい環境になってしまいます。次の章では、この「動かなくなる」現象について、研究でわかっていることを見ていきます。

02 研究と統計でわかっていること混雑した場所でためらうのは、意志が弱いから?

意志の問題ではありません。105件・7,700人以上を分析したメタ分析で、周りに人がいるほど助ける行動が減ることが確かめられています。ただし、状況が本当に危険なときは、この効果が弱まることもわかっています。

7,700人以上傍観者効果のメタ分析が統合した参加者数(Fischer et al., 2011)
105件同じメタ分析が統合した、独立した効果(実験・調査)の数
g=−0.35全体の効果量。人がいるほど助ける行動が減る方向(同メタ分析)

Fischer et al.(2011)[1]

周りに人がいる場面といない場面を比べた105件・7,700人以上のデータを統合すると、人がいるほど助ける行動が減る効果が確かめられました(効果量 g=−0.35)。ただし、状況が危険なとき、加害者がその場にいるとき、助けるのに体を張る必要があるときは、この効果が弱くなることもわかりました。

対象: 1960年代〜2010年の実験・調査105件、参加者7,700人以上を統合したメタ分析 / 限界: 多くは研究室での模擬場面を調べたもので、実際の犯罪現場そのものを対象にした研究ではありません。

Finkelhor & Asdigian(1996)[2]

子ども・若者の被害リスクを調べた研究では、人目の多さや行動範囲といった「日常活動理論」の要素だけでは説明がつかず、本人の弱さや対立のしやすさなど、個人の特性も関わっていることがわかりました。守ってくれる人(監視者)がいるかどうかは、リスクを決める要素の一つにすぎないとされています。

対象: 米国の青少年を対象にした全国調査データの分析 / 限界: 1996年の米国の調査で、対象は子ども・若者に限られます。

Salemonsen et al.(2026)[3]

若い女性9人への個別面接調査では、周りの人が気にかけ合うことと、声を上げる勇気を持つことの大切さが語られました。見て見ぬふりをしない雰囲気づくりを、学校などでの教育に取り入れることが提案されています。

対象: ノルウェーの16〜23歳の女性9人への個別面接 / 限界: 少人数の質的調査で、効果の大きさを数字で示したものではありません。

03 お金をかけずに今日からできること混雑した場所で何かを目撃したら、何をすればいい?

周りを待たず、自分がまず動きます。助けを呼ぶときは「そこの、赤い服の方」のように一人を具体的に指します。危険なときは直接止めず、110番と周りへの声かけを優先します。

1

「誰かがもう呼んだはず」と思わず、自分が110番する

複数人から連絡が入っても、警察は同じ事案として対応できます。ためらって誰も通報しないほうが問題です。

所要 1分

2

助けを呼ぶなら、一人を具体的に指す

大勢に向かって「誰か助けて」と言うより、「そこの、青いコートの方、110番してください」のように一人を名指しで頼むと、頼まれた側の責任がはっきりして動いてもらいやすくなります。

所要 数秒

3

直接止めるのが怖いときは、周りに知らせる

体を張って止める必要はありません。「やめてください」と大声を出す、駅員や店員に伝える、周囲に「見ています」と知らせるだけでも、加害者が行動をやめるきっかけになります。

所要 数秒〜1分

4

「見間違いかも」でも、できる範囲で確かめる

はっきりした危険でなくても、不安に思ったら少し離れた場所から様子を見る、駅員や店員に声をかけるなど、できる範囲で確かめます。

所要 1〜2分

目の前で起きていることが危険だと感じたら、迷わず110番してください。緊急でない相談は警察相談専用電話 #9110 でも受け付けています。

04 習慣にするコツとっさに動けるようにするには?

「自分が動く」とあらかじめ決めておくこと自体が効果的です。家族や友人と「こういうときはどうする?」を話しておくと、実際の場面でも動きやすくなります。

「見られている」こと自体に抑止力があるという研究は、看板の目の絵でも確かめられています(「見られている」だけで盗みは減るのか)。ですが今回の研究が示すのは、本当に効くのは「見ている人がいること」ではなく「実際に動く人がいること」だという点です。自分が後をつけられて助けを求める側になったときの動き方は、「帰り道に後をつけられている気がしたら」でも紹介しています。

05よくある質問

人が多い場所ほど安全だと思っていましたが、間違っていますか?

人数そのものが安全を保証するわけではありません。105件の研究・7,700人以上を分析したメタ分析では、周りに人が多いほど一人ひとりが動かなくなる「傍観者効果」が確かめられています。ただし、状況が本当に危険なときは、この効果が弱まることも同じ研究でわかっています。

通報するのは一人で十分ですか?みんなが110番したら迷惑では?

複数人から通報があっても、警察は同じ事案として対応できます。「誰かがもう通報しただろう」とためらって誰も通報しないほうが問題です。まず自分が110番してください。

直接止めに入るべきですか?

体を張って止める必要はありません。自分の安全を優先し、110番や駅員・店員への声かけ、周囲に「見ています」と知らせるなど、直接対峙しない方法を選んでください。

子どもにも同じ考え方を教えられますか?

教えられます。「周りに人がいても、自分から助けを呼ぶ・知らせる」ことを、「110番してください」のような具体的な言葉で教えておくと、とっさのときに動きやすくなります。

出典

  1. Fischer P, Krueger JI, Greitemeyer T, et al. (2011). The bystander-effect: A meta-analytic review on bystander intervention in dangerous and non-dangerous emergencies. Psychological Bulletin, 137(4), 517-537. https://doi.org/10.1037/a0023304
  2. Finkelhor D, Asdigian NL (1996). Risk factors for youth victimization: Beyond a lifestyles/routine activities theory approach. Violence and Victims, 11(1), 3-19. https://doi.org/10.1891/0886-6708.11.1.3
  3. Salemonsen E, Giertsen ACW, Seth M (2026). Young women's perspectives on unwanted sexual attention: navigating boundaries, responsibility, and prevention, a qualitative study. International Journal of Qualitative Studies on Health and Well-being, 21(1). https://doi.org/10.1080/17482631.2026.2640189