詐欺の手口を知っているのに、なぜ「自分は大丈夫」と思うのか

振り込め詐欺やアポ電のニュースを見て、「手口は知っているから自分は大丈夫」と思うことがあります。でも2009年版の警察白書が紹介した調査では、詐欺の被害者の7割が、その手口をすでに知っていました。知っていることと、電話を受けた瞬間に気づけることは、どうやら別の話のようです。だまされやすい人という決めつけではなく、人の判断がどこで揺らぐのかを、心理学の研究から見ていきます。
3行でわかる
- 詐欺師は、冷静に考える時間を奪い、権威や期限などの表面的な手がかりで判断させようとする。
- 手口を知っていることと、電話を受けたその場で「詐欺かも」と気づけることは別。知識があるほど、逆に自信が過信になることもある。
- いったん切って自分で確認する、一人で決めない、応じない条件を先に決めておくなど、お金をかけずにできる工夫で、その場の判断の揺らぎを減らせる。
01 犯罪者側から見ると詐欺師はなぜ「考えさせない」工夫をするのか?
詐欺師は恐怖や緊急性で冷静な検討を妨げ、権威や期限など表面的な手がかりだけで判断させるよう仕向ける。
心理学の二重過程理論では、人は情報をじっくり検討する「中心的処理」と、手がかりだけで素早く判断する「周辺的処理」のどちらかで物事を判断すると説明される。中心的処理であれば話の矛盾に気づきやすいが、周辺的処理のときは、相手の肩書きや期限といった表面的な手がかりに流されやすい。
詐欺の研究を幅広くまとめた2025年の心理学の論文では、警察や銀行、行政機関などになりすます「権威の装い」、「今日中に」「今すぐ」といった時間的な切迫感、「誰にも言わないで」という孤立化の指示などが、典型的な説得手法として繰り返し挙げられている。詐欺師にとって都合がいいのは、受け手が手口を知っているかより、電話を受けた瞬間に冷静な処理へ切り替えられるかどうかだ。急かされたまま周辺的な処理を続けてしまえば、知っているはずの警告を思い出す前に判断してしまう。
02 研究と統計でわかっていること手口を知っていても、なぜその場で気づけないのか?
2009年版の警察白書が紹介した調査では、詐欺の被害者の7割が手口を知っていたが、だまされた時点で詐欺かもしれないと考えた人は3割程度だった。
Hanochら(2025)[1]
詐欺の説得手法と心理的な弱点を幅広くまとめた論文では、詐欺を見抜けるという自信が、むしろ「過信」になりうると指摘されている。金融の知識が多いことが、かえって誤った安心感を与えうることや、表面的に手がかりを確かめれば大丈夫だと自分の力を過大評価する傾向も挙げられている。また、お金を失ったと答えた割合は若年層の方が高齢層より高い調査もあり、年齢で安心してよい根拠にはならないとされる。
対象: 詐欺に関する心理学研究を幅広くまとめた論文(系統的レビューではない) / 限界: 年齢・所得・学歴と被害率の関係は、研究や詐欺の種類によって結果が一貫しない。
Shangら(2023)[2]
ネット詐欺に関する17件の研究をまとめたレビューでは、手がかりだけで素早く判断する「ヒューリスティック処理」が被害に結びつきやすいと報告されている。引用されたある研究では、ヒューリスティックな処理によって、メールやFacebookのフィッシング被害に遭う可能性が約2倍になったとされる。
対象: 2022年までの文献6,835件から選ばれた17件のシステマティックレビュー / 限界: 直接データを分析した研究は3件のみで、著者も裏づけは十分ではないとしている。
Daikuら(2020)[3]
日本の成人162人を対象にした実験では、警告を事前に伝えても、じっくり検討する「中心的処理」の状態でなければ、相手の操作的な意図に気づく効果が表れなかった。周辺的な処理のときは、警告の有無で差が見られなかった。
対象: 日本の成人オンライン参加者162人、架空の広告を使った実験 / 限界: 実際の詐欺被害者を対象にした研究ではなく、著者自身も結果はまだ結論的ではなく、慎重に解釈すべきだとしている。
03 お金をかけずに今日からできること電話を受けた瞬間に、何をすればいいのか?
急かされたら一度切って自分で確認する。一人で決めない。「自分は大丈夫」と思った瞬間こそ用心する。この3つをあらかじめ決めておく。
いったん切って、自分で調べた番号にかけ直す
「今すぐ」「今日中に」と言われても、その場で答えを出さない。警察・銀行・役所を名乗る電話ほど、公式サイトなどで番号を調べ、自分からかけ直して確かめる。
所要 1分
一人で判断せず、誰かに話してから決める
詐欺師は「誰にも言わないで」と指示することが多い。家族や友人、警察相談専用電話(#9110)に話すだけで、頭の中だけで判断する状態から抜け出せる。
所要 5分
「自分は詳しいから大丈夫」と思った瞬間に用心する
手口を知っている自信は、過信につながることがあると研究者は指摘している。知っているはずの話ほど、落ち着いて確認する行動に移す。
所要 0分(考え方の切り替え)
お金や個人情報を渡す条件を、前もって決めておく
「電話やSNSで求められても、その場では一切応じない」という自分ルールを先に決めておくと、急かされた瞬間でも迷わず断れる。
所要 5分
04 習慣にするコツ知識を「その場で使える」ようにするには?
知っているだけで終わらせず、電話を受けた時に実際に「切る」「話す」行動まで、家族と話して練習しておくと身につきやすい。
- 最近来た怪しい電話やメールを、家族や友人と話す習慣を作る
- 自分の携帯電話に、警察相談専用電話(#9110)の番号を登録しておく
- 二段階認証やパスキーを設定し、SNSで公開している個人情報を減らしておく(パスキーの設定方法はこちら)
05よくある質問
詐欺の手口を知っているのに、なぜ気づけないのですか?
知識はその場で自動的に使われるわけではないためです。研究では、じっくり考えられない状態だと、事前に知っていた警告が役立ちにくいことが示唆されています。警察官を名乗る詐欺の手口も、同じように緊急性を使って考えさせない工夫がされています。
自分は若いから、詐欺に遭いにくいですか?
そうとは限りません。米国の調査では、詐欺でお金を失ったと答えた割合は、若年層の方が高齢層の約2倍だったと報告されています。年齢で安心していい理由にはなりません。高齢者が狙われやすい心理とは別に、誰にも当てはまるリスクとして見ておきたい結果です。
詐欺の電話を疑ったら、まず何をすればいいですか?
その場で答えを出さずに電話を切り、警察相談専用電話(#9110)や家族に相談してください。危険を感じたときや緊急のときは110番です。
出典
- Hanoch, Y., Wood, S., DeLiema, M., Han, S. D., & Lichtenberg, P. A. (2025). The Scammers' Psychological Warfare: A Call to Arms. Psychological Science in the Public Interest, 26(3), 136–177. https://doi.org/10.1177/15291006261431553
- Shang, Y., Wang, K., Tian, Y., Zhou, Y., Ma, B., & Liu, S. (2023). Theoretical basis and occurrence of internet fraud victimisation: Based on two systems in decision-making and reasoning. Frontiers in Psychology, 14, 1087463. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1087463
- Daiku, Y., Kugihara, N., Teraguchi, T., & Watamura, E. (2020). Effective forewarning requires central route processing: Theoretical improvements on the counterargumentation hypothesis and practical implications for scam prevention. PLoS ONE, 15(3), e0229833. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0229833


