チャットの恋人がAIかもしれない。ロマンス詐欺は「お金の話」で見分ける

毎日やさしい言葉をくれるチャットの相手が、実は人ではなくAIかもしれない。そう聞くと不安になりますが、相手の正体を文章から見抜く必要はありません。実験では、人はAIの会話もAIの顔写真も、ほとんど見分けられなかったからです。代わりに見るべきなのは、詐欺に共通する「お金の話」の流れです。
3行でわかる
- 5分の文字の会話で、人間らしく振る舞うよう指示されたAIは73%の割合で「人間」と判定された(Jones & Bergen, 2026)。
- AIで作った顔写真と本物の顔写真を見分けられた割合は48.2%で、偶然と同じ。しかも本物より信頼できると評価された。
- だから「AIかどうか」ではなく、「会ったことのない相手がお金を求めてくるか」で判断する。答えがはいなら止まる。
01 犯罪者側から見ると詐欺師はなぜAIでチャットを自動化するのか
ロマンス詐欺は、毎日の甘いやりとりで信頼を育ててからお金を求める犯罪です。AIを使えば、その一番手間のかかる「毎日の会話」を、多くの相手に同時に続けられるようになります。
ロマンス詐欺の50件の実証研究をまとめたレビューは、詐欺の流れを9つの場面に分けました [3]。準備、標的選び、最初の接触、個別のアプリへの移動、信頼づくり、お金の要求、送金、さらなる搾り取り、そして被害のあとです。
この中で時間がかかるのが「信頼づくり」です。愛情の言葉を浴びせ、将来の話をし、相手の生活に合わせた会話を続けます。同じレビューは、生成AIを使ったチャットボットや、ディープフェイクのビデオ通話が最初の接触の段階で使われた事例があると記しています。ただし、詐欺師が実際にどこまでAIを使っているかを示す研究は、まだ少ないとも書いています。
裏返すと、AIが肩代わりできるのは「会話」の部分です。最後に必ずやってくる「お金を送らせる」場面は、AIを使っても使わなくても変わりません。ここが、読者が見分けに使える一番確かな手がかりです。
02 研究と統計でわかっていること人はAIの会話や顔写真を見抜けるのか
実験では見抜けませんでした。文章の会話では、人間らしく振る舞うよう指示されたAIが本物の人間より「人間らしい」と判定され、AIで作った顔写真は偶然と同じ割合でしか見分けられず、本物より信頼されました。
Jones & Bergen(2026)[1]
参加者は、人間1人とAI1つと同時に5分間チャットし、どちらが人間かを当てました。内向的な若者として振る舞うよう指示されたAI(GPT-4.5)は、73%の割合で「人間」と選ばれました。本物の人間が選ばれるより多い割合です。同じAIでも、指示がないと36%でした。
参加者が一番よく使った確かめ方は、日常や仕事についての雑談(61%)と、気持ちや意見を聞くこと(50%)でした。恋愛のやりとりでふだん交わす話題そのものです。
対象: 米国の大学の学生126人と、オンライン調査の参加者158人。会話を15分に延ばした追加実験(オンライン調査の参加者205人、AIはGPT-5などに変更)でも、人間らしく振る舞うAIは56%と59%で人間と判定された / 限界: 相手がAIかもしれないと知っている実験で、何週間も続く恋愛のやりとりを調べたものではない。
Nightingale & Farid(2022)[2]
AIで作った顔写真と本物の顔写真を見分ける実験で、正解率は48.2%でした。見分け方のコツを教えて答えのたびに正誤を伝えても、59.0%までしか上がりませんでした。さらに別の実験では、AIの顔は本物の顔より信頼できると評価されました(7段階で4.82対4.48)。
対象: オンライン調査の参加者315人・219人・223人がそれぞれ128枚の顔を判定 / 限界: 2022年時点の画像生成技術で、顔写真1枚ずつの判定。いまの技術ではさらに見分けにくい可能性がある。
Schokkenbroek & Snaphaan(2025)[3]
詐欺師は、出会いの場がアプリやSNSでも、ほぼ必ず個別のメッセージアプリやメールに移ろうとします。運営の監視や通報の仕組みから離れるためです。関係を友人や家族に秘密にするよう頼むこともあります。お金の要求は少額から始まることが多く、事故や病気などの急ぎの「ピンチ」を理由に大きくなっていきます。そして被害者はほぼ必ず「お金は返す」と約束されていました。
対象: ロマンス詐欺の詐欺師の行動を記述した50件の実証研究 / 限界: 大半の研究は詐欺師本人ではなく、被害者や捜査関係者、裁判の記録などから集めた情報で、詐欺師がどう判断しているかは十分にわかっていない。
つまり、相手がAIかどうかは文章や写真ではわかりません。一方で、詐欺の流れには研究で確かめられた共通点があります。判断の軸を「相手の正体」から「起きていること」に移すのが現実的です。
国内のSNS型ロマンス詐欺の件数やきっかけは、マッチングアプリの出会いが詐欺に変わるときで警察庁の統計をもとにまとめています。
03 お金をかけずに今日からできることAIのロマンス詐欺を見分けるには?
「会ったことのない相手には、どんな理由でもお金を送らない」と先に決めておくことです。そのうえで、秘密にしてと言われたら人に話し、お金の話が出たら止まる。この3つは相手がAIでも人でも効きます。
「会ったことのない相手には送らない」を先に決める
振り込み、暗号資産、電子マネーのカード番号、投資への誘い。形は違っても、会ったことのない相手にお金や番号を渡さないと、今日のうちに決めておきます。気持ちが動いてからでは決めにくいからです。
所要 1分
「秘密にして」と言われたら、1人に見せる
詐欺師は関係を周りに秘密にさせようとします。家族や友人に、やりとりの画面を見せて「どう思う?」と聞くだけで、1対1の世界から抜け出せます。
所要 5分
次のサインが1つでも出たら、返事をする前に止まる
「アプリの外で話そう」と急ぐ。「2人だけの秘密」にしたがる。少額の頼みのあとに、事故・病気・税関などのピンチを持ち出す。「必ず返す」と約束する。投資や暗号資産をすすめる。
所要 30秒
送ってしまったら、記録を残して警察へ
それ以上は送らず、やりとりの画面と送金の記録を保存して相談します。緊急なら110番、急ぎでなければ警察相談専用電話 #9110 です。「取り戻してあげる」と近づく別の人は、二度目の詐欺のことがあります。
所要 10分
迷ったときは、メッセージを貼りつけて確かめられる詐欺かもチェックも使えます。声や動画、メールなど、手口ごとの見分け方はAI時代の詐欺の見分け方まとめに、動画の偽物についてはディープフェイクの記事にまとめています。
04 習慣にするコツ好きな気持ちがあっても判断を守るには?
気持ちが動いている最中に、その場で判断しないことです。先に決めたルールに任せ、1人で抱え込まない仕組みをつくっておくと、あとから自分を責めずにすみます。
- ルールを短い1文にしてメモに残す。「会っていない人に、お金と番号は渡さない」。
- ネットで知り合った人の話を、ふだんから家族や友人とする。秘密がない関係を当たり前にしておく。
- 「急いで」と言われたら、一晩おく。本当に困っている相手なら、1日待ってもらえるはずです。
- だまされても、恥ずかしいことではないと知っておく。詐欺被害の21件の研究をまとめたレビューでは、被害のあとに不安や落ち込み、恥、自分を責める気持ちが多く見られ、それはお金の大きさより、だまされた・裏切られたという経験と強く結びついていました [4]。早く話すほど、次の被害を止めやすくなります。
05よくある質問
ビデオ通話で顔を見られたら、本物の人だと思っていい?
ビデオ通話だけで本物と決めないほうが安全です。ロマンス詐欺の研究をまとめたレビューでは、ディープフェイクを使ったビデオ通話の事例が報告されています。顔が見えたかどうかより、お金や暗号資産を求められたかどうかで判断します。
プロフィール写真を画像検索して何も出なければ安心?
安心の材料にはなりません。AIで作った顔写真は、ネット上のほかの場所に同じ写真がないことが多く、画像検索で何も見つからない場合があります。研究では、AIで作った顔を本物かどうか見分けられた割合は48.2%で、偶然と変わりませんでした。
「必ず返す」と言われてお金を貸すのは大丈夫?
返す約束は安全の証拠になりません。ロマンス詐欺の50件の研究をまとめたレビューでは、被害者はほぼ必ず「お金は返す」と約束されていました。会ったことのない相手には、金額にかかわらず送らないことが基本です。
すでに送ってしまったときは、どうすればいい?
それ以上送るのを止め、やりとりの画面と送金の記録を残して、警察に相談してください。緊急なら110番、急ぎでない相談は警察相談専用電話 #9110 です。「お金を取り戻せる」と近づいてくる別の人は、二度目の詐欺の可能性があります。
出典
- Jones, C. R., & Bergen, B. K. (2026). Large language models pass a standard three-party Turing test. Proceedings of the National Academy of Sciences, 123(21), e2524472123. https://doi.org/10.1073/pnas.2524472123
- Nightingale, S. J., & Farid, H. (2022). AI-synthesized faces are indistinguishable from real faces and more trustworthy. Proceedings of the National Academy of Sciences, 119(8), e2120481119. https://doi.org/10.1073/pnas.2120481119
- Schokkenbroek, J. M., & Snaphaan, T. (2025). Love as Bait: A Scoping Review and Crime Script Analysis of Online Romance Scams. Trauma, Violence, & Abuse, 27(4), 1877–1893. https://doi.org/10.1177/15248380251361046
- Bai, J., Ho, M.-H., Sung, H.-T., Hung, C.-S., & Tsai, J.-H. (2026). Mental health and psychosocial sequelae of fraud victimization: a systematic review. Frontiers in Psychology, 17, 1805536. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1805536


